解任されることが夢――人情でつなぎ、育て、未来を創る会社主に水道関連の配管工事を通じて、お客様の「困った」を解決し、信頼を築き上げてきた株式会社有田水交社。代表取締役の有田さんの夢は、優秀な人材を育てあげ、「満場一致で代表取締役を解任されること」だと言います。有田社長が大切にしている「人情」で築くスタッフとの絆。仕事もプライベートも充実した働きやすい組織づくり。そして、未経験者をプロへと育て上げる人材育成の哲学についてお聞きしました。「人情」で築くワンチーム私は人と人とのつながりって、結局のところ「人情」に行き着くと思うんです。これは仕事上の考え方というよりも、私の生き方そのもの。スタッフには、人として対等に向き合うことを心がけています。社員5名、アルバイト1名という小さな組織ですが、勤続10年前後のベテランも多く、その要因こそが「嘘をつかないこと」、そして「人情を大切にしてきたこと」だと思っています。私自身、職人時代には、妬みや足の引っ張り合いも見てきました。だからこそ、うちではそうしたこととは無縁の、明るく、コミュニケーションがとりやすい「ワンチーム」の雰囲気を大事にしています。私が率先して冗談を言ったり、人に合わせて軽口をたたいたりすることもあります。妬みなんて、必要ありません。仕事って、結局は稼ぐためにやっているわけで、仕事ができる人には、素直に「すごいね」って認めればいい。シンプルなことなんです。ちなみに当社のホームページは、これから仲間になる若い人たちに向けて、海賊をモチーフにしたデザインにしています。見た目のインパクトだけでなく「フラットで風通しの良い職場」を表現したかったんです。「社員の責任は私が取る」。これは、私が常に胸に抱いている覚悟です。社長というのは、みんなが安心して働けるように支える、会社という「市」の「市長」のような立場だと捉えています。「社長、もう退いてください」――育成に込めた覚悟私の夢は、次の世代が立派に育って「社長、もう足引っ張ってるんで!」って、満場一致で代表取締役を解任されることなんです。それくらい、優秀な人材が育ってくれたらと思っています。うちでは、一人前になったあとに自分で進む道を選べるように、「一流の職人コース」と「現場をまとめる管理職コース」の2つのルートを用意しています。これはうちだけの都合ではなく、実は取引先からのニーズも強いんです。いまはどこの会社も人手不足で、若手の育成が追い付いていません。だから、施工だけでなく管理まで任せられる会社として、ありがたいことに頼っていただけています。現場で大切にしているのは「スピード(速さ)」「シーク(探求心)」「サティスファイド(満足させる)」の3Cです。原因がよく分からないようなトラブルや、開けてみるまで何があるか分からない現場でも、正確に、しかも最短で片づける。それがプロとしての仕事であり、技術者の「勘」だと思っています。もちろん、現場で得た知識やノウハウは、できるだけ社員にも共有しています。ただ、いくら頭で理解しても、現場で体感しないと本当の意味では身につきません。だからこそ、できるだけ多くの現場を経験してもらい、その中で真剣に仕事と向き合ってほしいんです。今いるスタッフの半分は未経験からのスタートでした。育てる上で大切にしているのは、私自身が初めて現場に入ったときの、右も左も分からなかった気持ちを忘れないことです。現場の汚さとか、怖さとか、そういうネガティブな気持ちも含めて、「感じたことは大事にしてほしい」と伝えています。教える側になったときに初心を忘れてしまったら、独りよがりになってしまいやすいんですよね。明確な基準がやる気を育む――透明な評価と働きがい人の人生って、仕事と家庭でほぼ半分ずつを占めていると思うんです。だから私は、社員の人生そのものに寄り添いたいと思っていて、ご家族の幸福度も高めることを目指しています。男性社員の育児休暇取得や時短勤務制度の導入などが一例で、独自の取り組みとしては「セレモニー休暇」があります。これは、子どもと遊園地に行くなど、どんな理由でも構わないので、家族にとって大切な時間を過ごせるようにと設けた制度です。人事評価も、できるだけ明確でフェアな形にしています。評価のタイミングは半年に一度。チェックリストを使って、次に目指す目標をしっかり可視化できるようにしています。「頑張れば給料が上がる」だと、こんな漠然とした言葉だと本人としても、どこまでやればよいか分からず、やる気が削がれてしまいますよね。明確な基準を提示して向き合うことが、会社としての誠意だと考えています。今を誠実に、未来を切り拓く「将来のビジョンは?」と聞かれることもありますが、正直なところ、すぐに浮かぶような壮大な目標があるわけではありません。私が大事にしているのは、目の前のやるべきことを、ひとつずつ誠実に、着実に積み重ねていくことです。それを繰り返していけば、自然と未来につながっていくと信じています。もちろん、若手を育てながら、会社を少しずつでも大きくしていけたらと思っています。かつての私のように、業界の良くない部分を変えていきたいと思っている仲間が、きっとどこかにいるはずです。そうした熱い仲間たちと一緒に働けたら嬉しいです。私たちの仕事を分かりやすく言えば「水道屋さん」で、基本的には困ったときにしか呼ばれません。だからこそ、呼ばれたときには必ず満足してもらい、「ありがとう」と言っていただけるよう、全力を尽くしています。そんなふうに、困っている人に誠実に向き合える人間を、一人でも多く育てていく。それが、私の役割であり、使命だと思っています。【企業情報】株式会社有田水交社本社住所:〒143-0024 東京都大田区中央4-33-8染羽ビル201HP:https://www.aritasuikousha.com設立:2003年代表取締役 有田奉広