「成長環境が人を育てる」革新的な人材育成で旧来の態勢に一石を投じる北陸地方を拠点とする空調設備会社「株式会社I.n.K(インク)」。設備業界における人材不足と高齢化が課題となる中、独自の人材育成と職場環境づくりで、急成長を遂げています。若い従業員のモチベーションを高く保ち、未経験者を短期間で戦力化する教育システムなどについて、石倉博志社長にじっくりお話を伺いました。「業界の常識」を打ち破る職場づくり――人材の確保や育成に課題感をもつ業界・組織は多いものですが、御社はそこをクリアされています。空調設備業界も他業界と同じく高齢化が進んでいて、技術の継承や人材確保が難しいのが現状です。特に若い世代にとって魅力的な業界とは見られていないと言えるでしょう。大手空調メーカーで現場監理の仕事をしていた私が、独立する前に感じていたのは、業界に残る古い慣習の問題でした。「職人気質」と言えば聞こえはいいですが、「見て覚えろ」という教育スタイルや、残業が当たり前の労働環境、曖昧な評価システムなど、現代の若者が求める働き方とはかけ離れていたんですね。適切な労働環境と公正な評価・報酬制度こそが、人材の定着と成長に直結するはずです。そこで弊社は、旧来の業界慣習にとらわれない新しい職場づくりを意識しています。残業代は30分単位で正確に計算し、夜勤など負担の大きい業務には特別手当を支給しています。ボーナスも年に複数回出すなど、働きに見合った報酬を適切に還元する仕組みを整えました。また、福利厚生面でもライフスタイル全体をサポートする取り組みを行っています。社員家族のことも考えた制度設計は、長期的な定着率向上につながっていると感じています。――業界未経験者を積極的に採用されています。今の社員は全員が未経験からのスタートです。未経験者をあえて積極採用する理由として、「効率」があります。業界経験者は、前職でのやり方や考え方がしっかり身についてる場合が多く、それはそれで価値ある経験なのですが、弊社が目指す高品質なサービスと新しい職場文化を「当たり前」として受け入れ、実践してもらうには、あえて「白紙」の状態から教える方が効果的な場合が多いのです。未経験者は先入観がない分、I.n.K独自の仕事の進め方や品質基準を自然に身につけてくれます。――未経験者を短期間で一人前に育成するとか。秘訣はどこにあるのでしょうか。私たちの教育で最も重視しているのは「理解」です。単に「こうやりなさい」と手順だけを教えるのではなく、「なぜこうするのか」という背景にある理由を必ず説明します。理論を理解することで、応用力が身につき、様々な現場状況に対応できる力が培われます。経験を積んだ段階で、徐々に任せる範囲を広げていきます。「失敗を恐れない文化」も大切にしています。もちろん安全や品質に関わる重大な失敗は避けなければなりませんが、挑戦の過程での小さな失敗は、成長のための貴重な経験と捉えています。失敗を叱責するのではなく、「なぜそうなったのか」を分析し、改善点を見つけ出す。そしてその経験を全員で共有することで、組織全体の学習につなげています。このアプローチにより、新人の挑戦する意欲と成長スピードを高め、従来なら5年から10年かかるとされていた技術習得が、約3年で可能になっています。若い世代の吸収力は本当に素晴らしいものです。――経営の透明性に関しても独自の取り組みをされています。社員に対して、会社の経営状況を積極的に開示しています。毎年開催する方針説明会では、売上・利益・目標などの情報を全員と共有します。中小企業ではこういった数字を社長だけが把握していることが多いものですが、それでは全員が同じ方向を向いて進むことは難しいと考えました。何より、社員一人ひとりに「この会社の経営に参画している」という意識を持ってほしい。会社の現状と目標を知ることで、日々の仕事がどう会社全体の成長につながっているのかを実感できるはずです。そうすれば自然と主体性も生まれてきます。また、定期的な個人面談では、私からのフィードバックだけでなく、社員の意見や要望も積極的に聞くようにしています。例えば、長期間の夜勤が続く場合に特別手当を出す制度は、社員からの「こういうのがあれば、みんな嬉しいんじゃないかと思って」という、何気ない一言から生まれました。会社の規模がまだ小さいからこそ、こうした声に素早く反応できます。社員自身のアイデアが会社の制度や仕組みになっていくことで、「自分たちで会社を作っている」という実感も強まるはずです。家族との絆を大切にする企業文化――社員との関係性についてどのように考えていますか。私は社員を「家族」のような存在だと考えています。単なる雇用関係ではなく、長期的な絆を築き、一緒に成長していきたいという思いが強いですね。「共に歩む」という姿勢が、I.n.Kの文化の基盤になっていると思います。5周年記念では社員だけでなく、その家族や親世代も招待してグアム旅行に行きました。テーマは「家族孝行・親孝行」。空調の仕事は現場が基本なので、家族に心配や負担をかけることも少なくありません。社員を支える家族への感謝の気持ちを形にしたかったんです。次はハワイに行きたいと目標を掲げています。――勤続5年の社員に、高級腕時計を贈ったのだとか。これは私の個人的な思いから始まった取り組みで、若い頃、「ある会社では長く勤めると高級時計がもらえる」という話を聞いて、素敵だなと思っていました。経営者になった今、その夢を形にできる立場になったことが嬉しかったんです。プレゼントした「ノルケイン」という時計メーカーは、弊社と同じ年に創業した若い会社。彼らの「頂きに挑む」というブランドメッセージに共感し、「私たちも空調業界で頂点を目指そう」という思いを込めて選びました。「自分の人生をかっこよく生きる」。これは社員への願いであり、弊社の文化でもあります。物質的な価値以上に、そうした思いが伝わることで、社員のモチベーションにもつながっていると感じています。――若い世代のニーズをよく捉えていますね。私自身まだ30代ですし、社員との年齢も近いので、彼らの価値観を理解しやすい面はあるかもしれません。子育て世代の社員が多いことから、子ども向け室内遊び場と法人契約し、家族が無料で利用できるサービスを導入しました。また、空調工事は体力も使う仕事なので、社内にトレーニングスペースを設置し、プロテインも飲み放題にしています。また、現代の若者にとって、SNSは重要な情報源です。私自身もそれほど詳しくなかったのですが、妻のアドバイスもあって、インスタグラムでの発信を始めました。現場の様子や社内イベントだけでなく、時にはふざけた投稿やドッキリ企画も交えて、会社の雰囲気をリアルに伝えるよう心がけています。入社前後のギャップをなくすためにも、普段見えない部分を積極的に公開することが大切だと考えています。まだ直接的な採用成果には結びついていませんが、友人や知人からも「こんな仕事をしていたんだね」と言われることが増え、空調業界への理解や興味が少しずつ広がっているように感じます。地道な活動ですが、将来的な人材確保につながると信じています。これからの人材育成と業界変革への貢献――今後の人材育成についての展望をお聞かせください。現在は中途採用・未経験者を中心としていますが、将来的には新卒採用も考えています。そのためには、単に給与や福利厚生だけでなく、「キャリア開発」や「スキルアップの道筋」をより明確に示していくことが必要でしょう。また、デジタル技術の活用など、若者が持つ新しい視点や発想を積極的に取り入れる風土づくりも引き続き重要だと考えています。――業界全体の課題解決に向けてどのような貢献を考えていますか。日本の建設・設備業界は、技術力の高さでは世界に誇れるレベルですが、働き方や人材育成の面では改革の余地が大きいと感じています。I.n.Kの取り組みが「こんな働き方もできるんだ」という一つのモデルケースとなり、業界全体の活性化に貢献できればと思います。古い体質からの脱却は決して簡単ではありませんが、若い力を中心に新しい価値観と働き方を示していくことで、徐々に変革は進むはずです。一企業の取り組みは小さくても、その波紋が広がることで大きな変化につながると信じています。何より、空調設備は人々の生活を支える重要なインフラです。特に近年の気候変動による猛暑や、産業用クリーンルームなど高度な空調技術へのニーズを考えると、この業界の社会的重要性はますます高まっています。そんな意義ある仕事を、若い力で未来につないでいきたいですね。【企業情報】株式会社I.n.K(インク)本社住所:〒921-8061 石川県金沢市森戸1丁目69番地1HP:https://www.ink-ac.com/代表取締役:石倉博志