職人技術を体系的に次世代へ継承。「石田鉄工所」ならではの細やかな成長環境整備大阪市西淀川区に拠点を構える石田鉄工所。30歳での起業から5年で20坪から150坪まで工場を拡大してきた石田誠一郎社長率いる同社は、「人財」を活かし、成長環境を整えることで成長してきました。整理整頓が行き届いた工場環境から、職人技術の継承まで、石田鉄工所ならではの人材育成と環境整備の取り組みに迫ります。整理整頓から始まる仕事環境づくり――工場内が非常にきちんと整理整頓されていて印象的です。「一仕事一掃除」という考えで進めています。ひとつの工程が終わって次の工程に入る前には、必ず作業場を整理し掃除するように声かけしています。単純に見た目の問題もありますが、安全に作業するうえでも重要なことです。同じく、工場外の環境も大切にしており、目の前の公園から飛んでくる空き缶の処理や、雑草の草刈りなども、2週間に1回は行っています。これは、以前勤めていた会社で身につけた習慣です。実は私自身は割と大雑把な性格なのですが、仕事の区切りごとに整理整頓し、工場外観にも気を配ると、やはり気持ちがいいですし、活気のある雰囲気も生まれます。職人にも実践してもらうことで、作業効率だけでなく、気持ちよく働ける環境が生まれています。「一人一作」で育てる自律と責任感――「一人一作」という製造体制の特徴を教えてください。「一人一作」とは、一つの製品を最初から最後まで一人の職人が担当する方式です。図面を受け取ってから完成品の検査まで、すべての工程を一人で責任を持って行います。これにより、「これは〇〇さんが作ったもの」と明確になり、品質に対する責任感が高まると考えています。毎朝、一人ひとりと5分程度話す時間を設けて、その日の作業内容を確認します。新しい仕事を始める時は、15〜30分ほどのキックオフミーティングを行います。全体朝礼ではなく、一人ひとりと個別に話をすることで、その人の状況に合わせた指示ができます。また、新しいバイクで出勤した職人とちょっとしたバイク談義をしたり、若い職人から「今日はデートなので絶対に定時で帰ります」との申し入れがあったりと、世間話を交えながらコミュニケーションも深められます。また、「一人一作」ですが、完全に個々で作業するだけではなく、互いの知見を共有することも大切にしています。私自身「一日3回は一人の職人と会話する」ことを心がけており、そうした対話から生まれる改善点も少なくありません。例えば、私が図面から必要な材料を拾い出す際、ベテラン職人から「この部分をもう少し長くとっておけば、組み立てが効率的になるのでは」といった意見をもらうことがあります。材料拾いは、製品の設計図から必要な鉄材の種類やサイズを決定する重要な工程。こういった意見交換は、私自身の学びになると同時に、職人の経験や知識が尊重される文化にもつながっています。技術継承と資格取得の体系的サポート――技術継承のために特に力を入れていることは何でしょうか。工場では、資格がないとできない作業がたくさんあります。まずは基本的な資格取得の道筋を明確にしています。最初は玉掛けやクレーンの免許など日常的に使うものから始め、次第に専門的な資格へと進みます。もちろん資格の重要度に応じた手当も設けていますし、資格取得の費用は2回目までは会社が負担します。私自身も例外ではなく、現在はボイラー溶接士の資格取得に挑戦しています。これは学科、実技ともに非常に難しい資格で、私も何回も学科試験に落第して、やっと実技試験にまでたどり着いたところです。これに合格すれば、圧力系のタンクの溶接も扱えるようになり、販路が拡大できます。こうして前進する姿を見せることで、各職人が自分のキャリアパスを自発的に考えてくれたらと思っています。また、職人の自主的な技術交流も活発です。終業後、若手がベテラン職人に「ちょっとここを教えてください」などと頼んでいる姿をよく見ます。一番早いのは、「二人羽織」のように後ろから手を添えて感覚を掴ませることですね。コツを掴んだら、あとは本人が試行錯誤して上達していくのを見守り、適切なアドバイスをしていくのが私たちの役目です。――コミュニケーションを促進するためにどのような工夫をされていますか。工場内では「FM802」という、大阪で人気のラジオ局の放送を流しています。音楽中心なので仕事の邪魔にならず、休憩時間にニュースや天気予報の話題で会話が弾むきっかけにもなっているようです。また、資格取得などの成果を共有する仕組みとして、資格試験で抜ける日や合格した日などは、本人から「受験に行ってきます」「合格しました」などと全員に報告してもらうようにしています。「頑張ってな」「おめでとう」といった会話が自然と生まれ、達成感を共有できる場になっています。こうした環境づくりも、勤めていた会社での経験が基になっています。「このシステムは嫌だな」とか、逆に「こんなやり方があればいいな」と思っていたことを、今、経営者として改善したり取り入れたりしています。第2工場新設でさらに多様な人材の活躍を目指して――この度、第2工場を新設されました。本社工場は鉄製品メイン、第2工場はステンレス専門と分けています。これは品質管理の観点から重要で、鉄の粉がステンレスに付くと「もらい錆」の原因になるためです。将来的には職人が2拠点間を行き来できるようにして、鉄専門の職人にステンレスも扱えるようになってもらうなど、いわば「二刀流」の職人を育成したいですね。運営面では、明確な数値目標を提示し、自律的に動いてもらいたいと考えています。私自身は両方の工場を往復しますが、常に目が届くわけではないので、工場単体での売上高などの具体的な目標設定が重要になります。すでに経験年数20年ほどのベテラン職人を迎える準備も整い、新たなチーム作りが始まっています。ゆくゆくはステンレスの先にチタンやアルミといった特殊鋼の溶接技術も身につけていきたいです。それぞれ専用の環境が必要になりますが、技術の幅を広げることで事業領域も拡大できると考えています。――人材育成において特に大切にしていることを教えてください。難易度や経験に応じた段階的な成長プランを描いているので、未経験者でも大歓迎です。手取り足取り丁寧に教える心構えですし、職人を増やすことが業界全体の活性化にもつながると考えています。簡単な業務なら10日ほどで覚えられ、半年から1年経てば配管サポートの溶接ができるようになります。ただ、大型製品を一人で作れるようになるには3〜5年、ボイラー溶接士のような難しい資格に挑戦できるのは5年目以降と、やはり極めるには難易度の高い技術もあります。職人として成長できるよう、段階的なサポートをしていきます。まだ実現していませんが、女性の採用にも積極的です。クレーンを使えば重量物も扱えますので、体力的な心配はいりません。むしろ、細かい作業は女性の方が向いているのではとも思います。多様な視点や感性が、石田鉄工所のカラーをより豊かにしてくれるのではと期待しています。職人の高齢化が進む中、若い世代にとって今は手に職をつける大きなチャンスだと思っています。「石田に頼めば良いものを作ってくれる」という評判を共に築いていきたい、そして一人ひとりが誇りを持って仕事に取り組める文化を作っていきたいと考えています。